栗田さんの話

昔、もう10年くらい前の話。





僕はバンドをやっていて、

バンドマンといえば!みたいな超適当な理由で高円寺に住んでいた。

 

10代でお金もないし

とりあえずいいとこに住めるはずもなく

フラフラと物件探して、たまたま入った駅前通りの不動産屋さんで

その時担当してくれたおっちゃんが「もうすぐ俺独立してアパートの管理人になるんだけどそこ住む?」って言ってくれたので

「うん!!」て感じでそのアパートに住ませてもらった。

 

駅徒歩5分。シャワールーム、トイレ共同。

家賃6万。

 

今考えると、いくら駅近で2階の角部屋でも高いなって思うほどクソボロかった。

でもなんか当時はバカだったので

「高円寺のボロアパート!バンドマンっぽい!!」ってテンション上がってた。

 

で、アルバイト先のパチンコ屋に

一つ年上の「栗田さん」って人がいたんだけど

この人もすげーボロアパートに住んでた。

 

木造二階建て、トイレ共同、風呂なし

家賃3万5千円。

しかもそこを友達とシェアしてた。

 

栗田さんのアパートは、ボロさだけなら僕の住んでいたアパートのそれをはるかに凌駕しており、なんかトイレは公衆便所みたいに無駄に広く、不穏な空気と「なんか死んでんじゃないの?」っていう異様な悪臭に包まれ

その臭気がトイレからダダ漏れでかつ暗いのでアパート全体が昼でも死霊の館っぽかった。

 

栗田さんもバンドマンで、デブなのにヴィジュアル系好きで無駄に髪型はアシンメトリーだった(当時流行ってた)。

イメージとしては、ノンスタイルの井上さんを少し太らせたらもうほぼ栗田さん本人です。

でも栗田さんのアパートにはシャワーもないので

よく僕のアパートの共同シャワーを借りに忍び込んできた。

 

その帰りにはだいたい僕の部屋に寄って

バンドがあーだこーだと話して帰るんだけど

僕の部屋は僕の部屋で

申し訳程度の流しが付いてたんだけど(キッチンとはとても呼べない、図工室とかのタイル地の水道)

排水溝が下水道直通だったので

隣の部屋とかで水を流すと水圧かなんかで下水の地獄のような腐敗臭が部屋に立ち込める仕様だった。

 

下水と流し場に何も隔たりがないので、

外出して帰ってくると普通にドブネズミが部屋にいるような環境だった。

 

ある日、栗田さんと新宿の繁華街をバイト帰りに歩いてたら、

マンホールかなんかから強烈な腐敗臭が漂ってきて

「うわ!くさ!! 俺ん家のニオイがする!!」と僕が言ったら

栗田さんはすごく冷静に「いや、お前ん家のニオイの方がコクがある。」と言い放った。

栗田さんは本当によくわからない名言をたくさん残した人だった。

 

ちなみに栗田さんの好きな言葉は「うま煮」だった。

「うま煮」と言われると「そんなんマズいわけないじゃん」と思ってしまうらしい。

 

そんな感じでお金がないなりにも楽しく過ごしていたのだが

貧乏生活にだんだん精神を病んだのか

栗田さんは少しずつ変わっていった。

 

バイトを色々と始めてはすぐに辞め、転々とし、

最終的には僕とパチ屋でバイトしていた時の同僚に、ベースとエフェクター類を借りてそのまま売り払い

その金を使って地元の鳥取に帰った。

 

後から聞いた話によると、そのお金は後日栗田さんの親だかが立て替えて同僚に返したらしい。

 

今はもう、栗田さんがどこでどうしているのか知る由もないが

もし会うことがあれば

とびきりの「うま煮」でも一緒に食べたいと思う。

昔話を語り合いながら。

 




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